田部京子のシューマン、初ライヴ録音
シューベルトなどで評価の高い田部京子の新作はシューマンです。代表作〈謝肉祭〉そして〈アラベスク〉と〈パピヨン〉の小品も収録。これは田部京子初のライヴアルバムでもあります。
〈謝肉祭〉は「前口上」から始まる小曲が並んだ曲です。各曲のなかに凝縮された世界があります。小品のつらなりなので、聴くほうもその都度気分が変わって聴きやすいです。
シューマンのピアノ曲の“ロマンチズム”は、味わい深いものがあります。「夢見心地だけど、どこか切ない」そんな、心をキュンとさせるフレーズなんですね。
だからといってシューマンを“乙女チック”と勘違いしてはいけません。ガンガンとパワフルなフレーズも出てくるのです。
この田部京子の演奏もそう。シューマンらしい夢幻世界を内省的に表現していきますが、激しい部分では、ピアノの打鍵が強い音となって目の前にあらわれます。
生々しいピアノ音。オーディオで音楽の深さを学んだような心境
シューマンのピアノ曲を聴いてこんなに強い印象を持ったのは、田部京子のピアニズムに加えて、オーディオ的な要因も大きいと思います。
マルチチャンネル(4.0ch)で聴いてみました。ホールでのライヴ録音ですが、かなりステージに近い席のイメージです。
ピアノの音は強くしっかり捕らえられています。とても生々しい。聴くというより体感にちかい。
またはオーディオの音というより、ピアノの音そのものに近い、と言ったらいいのか。弱音から強打音まで、色々な側面を持つ“音の建造物”に対面しているようです。演奏者の息吹も届きそうな気がします。
このディスクを聴くと、最初に書いた「夢見心地だけど、どこか切ない」というシューマンの印象も表面的なものに思えてきました。オーディオで音楽の深さを学んでしまったような心境です。
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シューマン:謝肉祭リリース記念田部京子×プロデューサー スペシャル対談
田部京子のSACD
2008.10.20
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