ピンク・レディー 阿久悠 作品集 |
文・牧野良幸
ステレオサウンド社(Stereo Sound)からピンク・レディーがSACD化された。作詞家、阿久悠の楽曲でつづるベスト盤『阿久悠 作品集』(オリジナルは2008年発売)のSACD化である。SACDシングルレイヤーとCDの2枚組。ディスクは音匠仕様レーベルコート。
SACD化にあたり、今回もステレオサウンドはこだわりの制作をする。
まず、アナログ・マスターテープの選考。JVCケンウッド・ビクターエンタテインメントの協力のもと、ステレオサウンドのスタッフと、マスタリングを担当する「STUDIO Dede」のエンジニアの松下真也氏が、ビクター・スタジオにおいてオリジナル・アナログテープを各種聴き比べた。
大もとのシングル盤のオリジナル・アナログ・マスターテープは他アーティストの曲が一緒に収められているものがある。よって社外に出せない。CD時代に繰り返し使用されてきたものでもある。
そこでLPのベスト盤のアナログ・マスターテープを調べる。こちらのアナログ・マスターテープはCD時代に使用されておらず、状態は良好なものがある。その中でテープの劣化や音揺れのなかったのが、『ピンク・レディー・ベスト・ヒット・アルバム』のマスターだった。
これはLPの音質も抜きん出ていた1枚だという。このマスターには収録の16曲のうち10曲が含まれていた。こうしてこのアナログ・マスターテープをベースにSACD化がおこなわれた。
マスタリングは「STUDIO Dede」の吉川昭仁氏。アナログマスターはDSD 11.2MHzデータへいったん取り込まれ、マスタリングをした後、SACD用にDSD2.8MHzデータを作成。この方が音のアドバンテージがあるという。その音質は想像以上の仕上がりだったため、ステレオサウンドは当初SACDハイブリッドで出す計画を、SACDシングルレイヤーに変更したほどである。
早速SACDを聴いてみる。厚みがあるというか、弾力があるというか、ふくよかで立体感のある音が飛び出してきた。伸びやかでみずみずしいダイナミックなサウンドとも言える。
ピンク・レディのヒット曲はどれも音が多いと思う。対旋律もよく入る。引き出しを開けたら宝石やアクセサリーがキラキラと出てきたかのように、いろいろな音がくり出される。
しかしSACDでは、それらの音が奇麗に整理され分離よく聴こえる。音がたくさんあっても空気感があるから分離よく聴こえるのだろう。ダイナミックなサウンドなのに、ギラギラしたところもない。オリジナルのダイナミズムをそのまま収めたマスタリングの証だと思う。
ピンク・レディーの曲は、それこそ日本人なら誰もが知っているのだが、SACDで聴くと、やはりテレビで聴いていた印象とはだいぶ違う。
次々と繰り出される音楽は圧巻だ。阿久悠の詞もユニークだが、ミュージシャンの演奏も素晴らしい。一糸乱れぬという言葉がふさわしいほど躍動感にあふれているのを体感できる。ミーとケイのヴォーカルもユニゾンで重なったり、ハーモニーで響きあったりと繊細だ。その変貌自在な様子を耳にできるのもSACDならではだろう。
「OH!」や「恋愛印象派」といった、最盛期のピンク・レディーとは違う味わいの楽曲も素晴らしい。落ち着いたアレンジと響き。これもSACDの聴きどころだ。
2020年6月3日
収録曲
1. ペッパー警部 (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
2. S・O・S (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
3. カルメン '77 (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
4. 渚のシンドバッド (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
5. ウォンテッド(指名手配) (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
6. UFO (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
7. サウスポー (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
8. モンスター (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
9. 透明人間 (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
10. カメレオン・アーミー (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
11. ジパング (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
12. 波乗りパイレーツ(日本吹込盤) (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:都倉俊一)
13. マンデー・モナリザ・クラブ (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:C.Merriam)
14. OH! (作詩:阿久悠 作曲:都倉俊一 編曲:井上鑑)
15. カルメン・シャワー (作詩:阿久悠 作曲:馬飼野康二 編曲:馬飼野康二)
16. 恋愛印象派 (作詩:阿久悠 作曲:馬飼野康二 編曲:馬飼野康二)