2021年4月21日 文・牧野良幸
ステレオサウンドがイ・ムジチの「四季」(1959年録音)をSACDシングルレイヤー化
ステレオサウンド社(Stereo Sound)がイ・ムジチ合奏団の「四季」をSACD化した。パッケージはSACDシングルレイヤーとCDによる2枚組である。
SACDの製作は、デッカ出身でClassic Sound Ltd UKのエンジニア、ジョナサン・ストークス氏。アナログ・マスターテープから、コンプレッサーなどをいっさい使用しないフラットトランスファーにより製作している。
SACD化に人気の1959年録音
アナログ・レコードの時代、日本のクラシックのベストセラーといえばイ・ムジチの「四季」がオンリー・ワンの時代があった。
しかしイ・ムジチの「四季」にも数種類あって、長年の間に、オーディオ界ではヒエラルキーが生じたようだ。
その中で一番人気が高い録音が、今回ステレオサウンドがSACD化した最初のステレオ録音である。この1959年録音はSACD初期にPhilipsがSACD化(現在廃盤)、昨年EsotericがSACD化(現在市場在庫のみ)、そしてこのステレオサウンドが3つ目となると思う。
前2社がSACDハイブリッド、カップリング曲付きの発売に対し、ステレオサウンドはSACDシングルレイヤー、オリジナルLPどおりの収録(「四季」のみ)と徹底しているところがオーディオ・ファイル向けの同社らしい。
「四季」といえばイ・ムジチ、さらにはフェリックス・アーヨ。
このように1959年録音は今日、人気だ。言葉をかえれば独奏をフェリックス・アーヨがしているものが本命、とも言い換えられる(アーヨ独奏には第1回のモノラル録音もあるが)。
ちなみに同じイ・ムジチの「四季」でも、僕は1969年録音のロベルト・ミケルッチが独奏をする録音(2回目のステレオ録音)が、1970年代を駆け抜けた怪物的ベストセラー・アルバムの印象なのだが、高音質化をされる側には1959年録音の方が魅力的のようである。いつか69年録音もSACD化してくれないかと僕は願っているのだが。
話がそれた。それではステレオサウンドのSACDを聴いてみよう。
1959年録音の太く流れ出るような音
最初に書いたようにこのSACDは、アナログ・マスターテープからフラットトランスファーされたものである。そのため「マスターテープに含まれるヒスノイズやドロップアウトも残ったまま」と断りがあるのだが、いやいや、ノイズのないとても奇麗な音に思えた。あるかもしれないが全然感じない。
1959年録音とは思えない、ダイナミックな音が押し出し良く出てくる。往年の名盤のSACDを聴くときは、脳内ではアナログ・レコードの音を思い浮かべながら聴くものだが、このSACDではアナログ・レコードを飛びこえて(つまり針でトレースした音ではなく)オリジナル・テープのずぶとい音がそのまま再現されているようにさえ思えるのである。
初期ステレオ録音の塊のような音はカイカン。弦楽の重なる具合がたまらない。アーヨのソロ・ヴァイオリンの音色もたまらない。当時の録音ってこんなによかったのかとあらためて思う。
SACDでこれから“四季ブーム”やります
1960年代から70年代にかけて、中学生から大人まで、日本のクラシック愛好家を魅惑したイ・ムジチの「四季」。
当時はそんな“四季ブーム”を尻目に見ていたところもある僕であるが、ステレオサウンドのSACDを手に入れてからは、正直に言おう、これからは聴きまくります。曲はいいし、気持ちがいいオーディオ音なのですから。カップリング曲がないのもこのSACDのいいところ。リスニングが気持ちよく終われる。