古典派ケルビーニの、珍しいピアノ・ソナタの録音
本作はフランスで活躍した作曲家ケルビーニ(1760-1842)の、ピアノ・ソナタ6曲を演奏したアルバムです。
ケルビーニの作品はほとんど聴くことがありませんが、本作は僕にとって、疲れた時に聴く“清涼剤”のようなSACDです。
ケルビーニのピアノ・ソナタは、同時代のモーツァルトやベートーヴェンのピアノ・ソナタと違って、こちらの心を動かすような「霊感」も「圧倒的なところ」もありません。
そのぶん、淡々と流れる曲調の、ちょっとした美しさに、心がくつろぐわけです。
音楽的にはバロックの作曲家、スカルラッティの曲調にちかい印象を受けました。スカルラッティと同じく、無垢ゆえに、最初は印象が薄いのですが、聴けば聴くほど好きになる感じです。
ファジオーリの甘い音色、バケッティの奏法も“清涼剤”
もうひとつ、僕にとってこのSACDが“清涼剤”である理由があります。このSACDのピアノの音色は、独特の音色なのです。
最初はケルビーニの作曲法がそう感じさせるのだと思っていました。
でも随所の「ド・ソ・ミ・ソ〜」という左手パターンは、典型的なピアノのおケイコ風(古典派)で、特別変っているとは思えません。
それでブックレットをよく見ると、使用ピアノが「ファジオーリ(Fazioli Grando Piano Model F278)」ではないですか。イタリアの新しい(超こだわりの)ピアノ・メーカーです。
ファジオーリは、スタインウェイほど鋭く輝いていないし、ベーゼンドルファーほど重厚で沈んでもいません。
なんというか、透明なあめ玉のような音色。
ケルビーニの「ころがる音楽」にはピッタリで、このディスクで初めてファジオーリの音色を堪能した気がします。
演奏するバケッティの奏法も、グールドほどではありませんが、流れるようなパッセージを見事に聴かせます。ケルビーニ+ファジオーリ+バケッティのSACD、やっぱり“清涼剤”です。
ピアノの音色が綺麗に広がるサラウンド空間
マルチチャンネルでは、スピーカー間に鍵盤が大きく広がることはなく、中央から部屋全体へと広がる、これも僕の好きなタイプのピアノのサラウンドでした。
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 2012.3.19
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