玉置浩二 玉置浩二ベスト(アナログレコード) |
文・牧野良幸
ステレオサウンド(Stereo Sound)が『玉置浩二ベスト』をアナログレコードで2020年3月に発売した。33回転180グラム重量盤。
アナログレコードは全曲デジタル・マスターから日本コロムビアの武沢茂氏がカッティング。カッティングレースはノイマン社製VMS70。カッターヘッドはSX74。それをファーストメタルマスターからダイレクトにプレスした数量限定盤。
選曲はステレオサウンド独自の構成による全10曲。A面には1993年、安全地帯の活動休止後にリリースしたソロ2作目『あこがれ』より4曲に加え、1989年に5枚目のシングルとして発売された「行かないで」を収録。B面はライヴで2015年9月16日、故郷の旭川市公会堂での録音。
A面に針を落とすとピアノとストリングスによるインストに続き、玉置浩二のヴォーカルが現れる。手探りをするように歌う玉置浩二とピアノ伴奏。余韻の長いフレーズの連続はレコード・プレーヤーのワウ・フラッターが試されそうなほどに減衰音が印象的だ。
A面はオーケストラをバックに静かな曲調のナンバーが収められている。“行かないで……、行かないで……”と切なく歌う「行かないで」。これをCDなどで簡単に聴き流してはもったいないと思う。アナログレコードの音はよどみなく伸びやかである。
「コール」。玉置浩二のささやくような歌唱スタイルは同じながら力強さが加わる楽曲。
ラストの「大切な時間」は目の前で歌っているかのよう。この曲の最後にはA面の最初と呼応するようなストリングスのパートがある。選曲元の『あこがれ』が同じ1曲目と最終曲だから、A面にその世界観を壊すことなく凝縮している。ここに別のシングル「行かないで」をうまく3曲目に組み込んでいるのところに製作陣のうまさを感じた。
B面は一転してライヴだ。A面が深い雪国の孤独な世界としたら、B面は暖炉のそばで集っているような温もりを感じさせるサイド。バンドも加わり、玉置浩二のヴォーカルもどこか開放感と喜びを帯びている。
「aibo」ではゴスペル調のようなヴォーカルでもある。この人のヴォーカルの幅を感じさせてくれるトラックだ。ライヴ会場を感じさせる響きの深いヴォーカルと、しっかりとしたサウンドのバンド音がバランス良い。
玉置浩二は「君がいないから」でさらに歌い込む。そして「田園」。アルバム中最も軽快な曲となる。言うまでもなく玉置浩二の大ヒット曲である。会場の拍手もクライマックスを盛り上げる。
最後の「メロディー」はアンコール風にギターの弾き語りから始まる。やがてバンドのサポートも加わり、玉置浩二は最後まで言葉を紡ぐように歌い上げて終わる。
Side A2020年4月3日