ボブ・ジェームス・トリオ フィール・ライク・メイキング・ライヴ! |
2022年2月21日 文・牧野良幸
ボブ・ジェームス・トリオの新作『フィール・ライク・メイキング・ライヴ!』がevosoundからリリースされた。SACDハイブリッドである。マルチチャンネルも収録。
今日、クラシックはともかくロックやジャズで新録音がSACDでリリースされることは残念ながら少ない。
その中でevosoundは新録音をSACDなどの高音質盤でリリースしている貴重なレーベルだ。ボブ・ジェームスやフォープレイのアルバムを高音質盤でリリースしている。そんなevosoundとボブ・ジェームスが今回はライヴによる編集なしのアルバムをリリースした。
アルバムはSACDハイブリッドの他にMQA-CD、アナログ・レコード、イマーシヴ・オーディオ(ドルビー・アトモス、AURO 3D)収録の映像ブルーレイなど、多様なパッケージでリリース。現代の高音質フォーマットを網羅している。
さっそくSACDハイブリッドのマルチチャンネルで聴いてみた。
音の位置は左にボブ・ジェームスのキーボード。中央にベース。右にドラムスと並ぶ。
しかしサラウンドのせいだろう、左右に窮屈さがない。通常の2chステレオで聴くピアノ・トリオよりも広がりがある。音はコーナーからサイドにかけても広がる感じだ。右のドラムなど、入れ子構造で、ドラム・セット内だけでもステレオ感があり楽しめるほど。
ブックレットには録音風景を写した写真(下写真)が載っているが、それがそのままリスニングルームの前方に広がる感じである。
マルチチャンネルは5.1chだが、なんとなく上方向にも伸びそうな気配を感じさせた。イマーシヴ・オーディオ(Dolby ATMOS、AURO 3D)の環境をお持ちの方は、そちらを収録したソフトも注目だろう。
音は申し分ない。粒立ち、解像度、押し出しの良い音。ダイナミックで階調のグラデーションも綺麗。それらがクリアで広がりのある空間に出現する。
音質だけでなく演奏も素晴らしかった。
セルフ・カヴァーをライヴ録音。こう書くと、手慣れて無難な演奏を思い浮かべる人がいるかもしれないが、本作は全然そんなことはない。まるで今作曲されたばかりのようにエネルギッシュな音楽である。
ボブ・ジェームスは80歳を超えているのに、なんと若々しいことか。フェンダー・ローズの響きなど青年のプレーヤーのようで、聴いているこちらまで70年代の若かりし頃に戻ってしまいそうである(それを捉えた録音も素晴らしい)。
「トップサイド」などのファンキーな曲もあれば、「ミスティー」のようにピアノでしっとりとした演奏もある。エルトン・ジョンの「ロケット・マン」のカヴァーは、原曲のメランコリーさを抽出したスタイリッシュな演奏に仕上げている。その幅は広く、聴いていて飽きない。
あと、3人のテクニックがすごいのだろうか。旧来のピアノ・トリオの演奏とは違って音数や音色がゴージャスだ。これで編集なしなのだから驚く。スムース・ジャズさえ通過点に過ぎないかのようなピアノ・トリオだと思う。
このレビューはSACDハイブリッドを聴いた感想だが、本作はいろいろなフォーマットで発売になっている。自分の好みの高音質盤でぜひ聴いてみてほしい。