SACDレビュー

ジャズ、ボサ&リフレクションズ Vol.1

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ジャズ、ボサ&リフレクションズ Vol.1

SA-CDハイブリッド 
発売日:2023年11月29日

Universal Music

文・杉田ヨシオ 2023年12月19日

オノ セイゲンのDSDマスタリングで聴くジャズとボサ

『ジャズ、ボサ&リフレクションズ Vol.1(Jazz, Bossa and Reflections Vol. 1)』は、坂本龍一などたくさんのアーティストに関わり、またSACDのマスタリングも数多くしているオノ セイゲンが、DSDマスタリングをしたジャズとブラジル音楽を収録したSACDハイブリッドだ。ユニバーサル ミュージックから2023年11月に発売された。

オノ セイゲンは過去にジャズとブラジル音楽の名盤のDSDリマスターを手がけた。その中からオノ セイゲン自身の選曲で編まれたのが本作である。SACD層のみ最後にオノ セイゲン自身の曲も収録されている。


本作のディスク面

いい音楽を「体験する」SACD

収録されている曲のうち、ヴァーヴ・レーベルの音源は、2004年《ヴァーヴ誕生60周年記念企画》のSACDハイブリッドのために、オノ セイゲンがニューヨークのユニバーサル ミュージックに行ってソニーのSONOMA(DSD編集機)を持ち込み、オリジナルのアナログ・マスターテープから丁重にアーカイヴしたもの。

エリス・レジーナなどのブラジル音楽の方は、それより前2002年《サウタージ・ブラジレイラ・シリーズ》CDのためにオノ セイゲンがマスタリングしたもの。日本のポリドールに保管されていた世界で一番状態のいいアナログ・テープ(本国ブラジル・フィリップスのマスターが痛んでいたため)からDSDマスタリング。今回は新規のマスタリングで初SACD化となる。

本作でオノ セイゲンのDSDマスタリングの成果を存分に聴くことができる。リスナーはアナログ録音独特の温かみと、厚みのあるいい音を浴びる。高音質にこだわってきたリスナーならシステムを最高に鳴らすことができるだろう。レファレンスとして聴いても楽しいと思う。


ブックレットには収録元のLPジャケット写真、
矢野 優(編集者/文芸誌「新潮」編集長)とオノ セイゲンのライナーノート収録

選曲のセンス、初SACD化ブラジル音楽も注目

本作はヴァーヴ・レーベルやボサの代表的な録音を集めたサンプラー的な聴き方もできるだろうが、一つの作品としてアルバムを聴くこともできる。

筆者も最初は、高音質を聴くためのSACDのつもりで聴き始めたのだが(それだけでも嬉しい)、いつのまにか引き込まれてしまった。選曲された曲。それらの曲のつながりが味い深い。

1曲目のオスカー・ピーターソン・トリオの「ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー」で始まるところからして選曲にセンスを感じる。

オーディオマニア向けなら派手な音楽で高音質を強調したいところなのに、さりげない曲で開始である。オスカー・ピーターソン・トリオは演奏を小さい音数でチャーミングに開始。オーディオマニアなら音数が増えながら、一つ一つ高音質を確認していく楽しみを持つだろう。

その後も、ジャズやボサのデュエット曲が並んだり、ビル・エヴァンスやウェウ・モンゴメリーがちょっと並んだりと、飽きのこない構成である。

その中で筆者が惹かれたのはヴォーカル曲だ。それもエリス・レジーナなどのブラジル音楽のヴォーカル。エラ・フィッツジェラルドのヴォーカルも極上の音質だったが、エリス・レジーナらの曲もヴォーカルが素晴らしい。SACD層のみに収録されている「ハウ・インセンシティヴ」などゾクゾクしてしまった。

オスカー・ピーターソン・トリオやビル・エヴァンスなどのヴァーヴ・レーベルの音源はSACDハイブリッド化されたので、その音を聴いている方も多いだろうが、(持っていない方は中古で探してみてください)、これらブラジル音楽は、最初に書いたようにDSDマスタリングがされたもののCDでの発売だったので、このディスクが初SACD化である。本作で、その生々しさを初めて聴くことができる。その意味でも貴重なSACDだ。これを聴くと『エリス・レジーナ・イン・ロンドン』などオリジナルアルバムのSACD化を期待したくなる。

収録曲

  1. ユー・ルック・グッド・トゥ・ミー / オスカー・ピーターソン・トリオ
  2. エイプリルイン・パリ / エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロング
  3. オー・ユー・クレイジー・ムーン / ウェス・モンゴメリー
  4. 三月の雨 / エリス・レジーナ&アントニオ・カルロス・ジョビン
  5. お友達になれない? / エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロング
  6. トリスチ / エリス・レジーナ&アントニオ・カルロス・ジョビン
  7. ワン・フォー・ヘレン / ビル・エヴァンス
  8. ナーディス / ビル・エヴァンス
  9. 飴と銃弾 / エリス・レジーナ
  10. サン・ダウン / ウェス・モンゴメリー
  11. イパネマの娘 / スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト
  12. カンデイアス / カエターノ・ヴェローゾ&ガル・コスタ
  13. ネニュマ・ドール(痛みなくして) / カエターノ・ヴェローゾ&ガル・コスタ
  14. ボディ・アンド・ソウル / スタン・ゲッツ
  15. アイ・リメンバー・ユー / チャーリー・パーカー
  16. コルコヴァード / オスカー・ピーターソン・トリオ
  17. コラサォン・ヴァガブンド / カエターノ・ヴェローゾ&ガル・コスタ

[以下SACD層のみ]

  1. アヴァランダード / カエターノ・ヴェローゾ&ガル・コスタ
  2. デサフィナード / スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト
  3. ハウ・インセンシティヴ / エリス・レジーナ
  4. ポル・トーダ・ア・ミーニャ・ヴィーダ / ナラ・レオン
  5. ザ・マン・アイ・ラブ / エラ・フィッツジェラルド
  6. 白と黒のポートレイト / エリス・レジーナ&アントニオ・カルロス・ジョビン
  7. イッツ・デニーゼ / セイゲン・オノ・アンサンブル
  8. フォーティ・デイズ・アンド・フォーティ・ナイツ / セイゲン・オノ
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ジャズ、ボサ&リフレクションズ Vol.1 /Various Artists

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