ストレイホーンの名曲を集めて、ヘンダーソンが素晴らしいプレイ
本作は、デューク・エリントン楽団の作曲家として有名なビリー・ストレイホーンの曲を、ジョー・ヘンダーソンが演奏するアルバムです。
ジョー・ヘンダーソンは1960年代、新主流派のテナー・サックス奏者。ブルーノートのリーダー作やサイドマンとして活躍し、歳を重ねてきました。そして、この録音は1991年。若手ウィントン・マルサリスも数曲に参加しています。
このアルバム、ストレイホーンのカヴァーに甘んじるという雰囲気はなく、あたかもジョー・ヘンダーソンのオリジナル・アルバムのような完成度です。 伝統的なアコースティックな演奏は、ベースやドラムスとのデュエット、トリオ、クァルテットと曲によって編成を変えながら、魂のこもったブローを聴かせます。
これを聴いていると、彼と同期のコルトレーンやエリック・ドルフィーらが活躍した“60年代ジャズ”が、SACDという高音質で蘇った気がします。テナーの掠れ具合、アドリブの深み、まるでコルトレーンを聴いているかのよう。
数曲で参加のマルサレスのトランペットもいい。テクニックだけが空回りの印象はここにはありません。「こういう吹き方なら、大好きだよ」とがぜん注目。ドラムスのグレゴリー・ハッチンソンも、すごい暴れまくる演奏をしています。
ルディ・ヴァン・ゲルダーが録音し、マルチチャンネルも製作
録音はジャズ・ファンにはおなじみのルディ・ヴァン・ゲルダー。マルチ・チャンネルも2003年、ゲルダー自身によって製作されています。
音はヴァン・ゲルダーらしく、60年代ジャズぽい、楽器からガッシリと掴みとった音。「高音質にまとめよう」なんて意識はなさそうで、レンガのように重たく、厚い音です。
まるでVUメーターの針がいつもレッドゾーンで鳴っているような感じ(もちろん音は割れていませんよ)。アナログのテイストが存分にある音です。
特にすごいのはベースで、弓で弾いて「ゴリゴリ!」。指では「ブンブン!」。スピーカーがベースのボディになったように唸ります。
マルチチャンネルは、さらに“ゲルダー節”
ゲルダー先生の製作したマルチ・チャンネルは、すごく凝っています。
冒頭「イスファハン」はバラードで、ヘンダーソンのサックスとベースのデュオ。
センター・スピーカーにサックス。ベースはリアで、向き合う感じです。フロントのL、Rスピーカーでさえ、音は微かなアンビエント音のみ。センター・スピーカーをフルに鳴らせてサックスにみたてます。
そんなモノクロの世界から、一転、2曲目「ジョニー・カム・トゥリー」はカラフルな世界に。マルサレス、ハッチソンも参加して、スピーディなコンボの音が、リスニングルームに「パァー」と広がり、ビッグバンのような爽快感。ピアノは左サイドいっぱいに広がる。
ゲルダーは、ジャズにありがちな無難なマルチでは満足せず、曲ごとに楽器配置を大胆に
動かします。
「ブラッド・カット」ではピアノはリアに持ってきた。「レイン・チェック」では前方サックス、リアにドラムスでデュオ対決。
「A列車でいこう」もサックスとドラムの編成。リアのドラムが延々とソロをやっているとき、前方のサックスがすごく小さく音で吹いているのがおかしい。そっと小節を数えているのだろうか。
演奏よし、録音よし、マルチチャンネルよし。三位一体のジャズSACDです。
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ジョー・ヘンダーソンのSACD
2010.9.21
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