テレサ・テン『愛人』SACD+CD、LPレコード

文・杉田ヨシオ 2023年1月20日
ステレオサウンド社がテレサ・テンの『愛人』をSACD化(シングルレイヤー)、33回転アナログレコードもリリース
ステレオサウンド(Stereo Sound)がテレサ・テンのアルバム『愛人』を、SACDシングルレイヤー+CD(2枚組)とLPレコードで発売した。
ステレオサウンドは前作『つぐない』もSACD/LPレコード化しており、それに続くリリース。
『愛人』のオリジナルは1985年に発売。荒木とよひさ(作詞)と三木たかし(作曲)によるヒット曲「愛人」をメインに構成されている。その他に小椋佳、飛鳥涼、南こうせつ、美樹克彦(懐かしい、歌手だけでなくシンガーソングライターとしても活動)らの曲を収録。

タイのカーラジオで聴いたテレサ・テン
SACDとLPレコードの話の前に、僕のテレサ・テンの思い出を書きたい。
1990年代、タイに旅行に行った時である。現地のタクシーを使いバンコクからアユタヤの遺跡を訪ねた。その帰りの話だ。
タイの放送が流れているカーラジオから突然テレサ・テンの曲が流れてきた。テレサ・テンと分かったのだから日本語で歌われていた。たぶん「時の流れに身をまかせ」ではなかったかと思う。
テレサ・テンはアジアで人気だったからタイのラジオで流れても不思議はない。しかし異国の地で突然前触れもなく聴いたテレサ・テンの歌声には、日本語ということを差し引いても、感動した。
大げさに言うとバッハのアリアを聴くような。なにより人の心に寄り添う温かみに癒されたのだった。他の日本人歌手だったら、ここまでの感動はなかったと思う。テレサ・テンの歌は人の心に訴える力を持っているとその時に気づいた。

SACD、CD、LPレコード それぞれ新規マスタリング
そのテレサ・テンの歌声がSACDや180g重量盤レコードで聴ける。
SACD+CD、アナログレコードも、オリジナルのアナログ・マスターテープから、新規にマスタリング。マスタリングをしたのは、コロムビアスタジオの武沢茂氏だ。
SACDはSACDシングルレイヤーとCDの2枚組だが、マスタリングはSACD用とCD用、それぞれ別にマスタリング音源を制作した。オーディオ・ファイルならSACD、CDどちらの音でも楽しめるはずだ。SACDは細部まで描写された押し出しのある音かと思う。ヴォーカルも艶やか。
アナログレコードもSACDとは別に、アナログレコード用のマスタリングを制作。カッティングも武沢茂氏。
アナログ・レコードはやはり音のエッジが柔らかい。音場全体も柔らかく、ヴォリュームはSACDよりも上げる。暖炉の火のように温かみのある音場が立ち上る。
カッティングが素晴らしいのは、針を落とせばすぐに分かることで、あとはカートリッジやプレーヤー、アンプなど、個人のシステムでどこまでもいい音を引き出せるレコードである。僕のシステムだと中域から低域にかけて充実した音だった。
演歌からニューミュージックまで“クロスオーヴァー”する世界
収録曲の話に移ると、いずれもこのアルバムのための書き下ろしで、フォーク、ニューミュージック風な空気が漂い、湿っぽさはない。普通の歌謡曲というか、アイドルの曲というか、ポップス系の音だ。
そこにテレサ・テンの温かい歌声が重なるや、演歌からニューミュージックまで“クロスオーヴァー”する世界になり、現在の時点で聴くと、また幾多の音楽遍歴を重ねてきた自分の今の年齢で聴くと味わい深い。
ヒット作「愛人」はいうまでもなく、3曲目の松井五郎(作詞)南こうせつ(作曲)の「ノスタルジア」が僕は好きだ。6曲目(LPではB面1曲目)「乱されて」は、かなりシティポップのようなサウンド。アルバム全体を通じて作詞、作曲陣の味が出ている。
収録曲(SACDシングレイヤー/CD)LPは片面5曲づつ
- 愛人
- 雨に濡れて
- ノスタルジア
- 驛舎(ステーション)
- I LOVE YOU
- 乱されて
- ミッドナイト・レクイエム
- 愛は砂のように
- 夕凪
- 今でも・・・・・・