ブラームスが書かなかった“クラリネット協奏曲”をあたかも手に入れたよう
本SACDの原題は『Clarinet.Universe』。クラリネットと宇宙にどうゆう関係があるのか分からないですが(笑)、とにかくブラームスのクラリネット・ソナタとホルストの〈惑星〉が収められています。ライヴレコーディング。
注目はクラリネット・ソナタ第1番です。本来はクラリネットとピアノのための室内楽ですが、それを現代音楽作曲家ルチアーノ・ベリオがクラリネットとオーケストラ用に編曲しました。つまり“クラリネット協奏曲”へとなったわけです。
現代音楽の作曲家の編曲?
ならば12音技法、トンがった和声とリズム?
なんて思っていましたが、聴いてみると実に「ブラームスの世界そのもの!」なので驚きました。ここには編曲者の自我はなく、ひたすらブラームスの渋み、侘び寂びの音響です。ブラームス自身の編曲といっても誰も分からないのではないでしょうか。
泣けてくるクラリネットのメロディ、それを暖かく包むオーケストラ。ブラームスが書かなかった“クラリネット協奏曲”を、ベリオのおかげで我々はあたかも手に入れたようです。
調べてみるとベリオは他にも素晴らしい編曲作品があるようです、これだけの編曲、これもまたペリオの才能といえるでしょう。
マルチチャンネルはコンサート・ホールのB席あたりか
マルチチャンネルで聴きましたが、サラウンドは完全にコンサート・ホールのような響きです。オーケストラは直接音がスピーカーから飛び出す、というより、間接音主体の鳴り方。
それでもクラリネット・ソナタではソロ・クラリネットは、きっちりと前面にでています。このクラリネットの甘い音色はいいと思います。
座席の距離でいえばB席からC席の一番前というところでしょうか。オーディオ的な音圧がないので、どんどん音量を上げられる(ていうか上げたくなる)。
しかし〈惑星〉のフォルテッシモでは重厚な低音が響いて(オルガンだろうか。金管はそれほどでもない)、「ちょっと大きすぎたか」とヴォリュームを下げたのでした。
〈惑星〉はポップな曲でもありますから、ダイナミックに、より気味の音のほうが迫力があるかと思いますが、それでも「土星」「天王星」などは引き込まれ、こういう音場もいいかなと思いました。
ライヴ録音でありながら、観客の咳がカットされていないのは、珍しいほうだと思います。曲間の観客のざわざわした気配も残してあります。
最後の「海王星」のコーラスが消えたあと、会場を埋める拍手。この拍手はリスナーの周りを埋めるように鳴り響きます。自分に近いところでは見事な直接音の拍手。「こりゃ、やっぱりライヴ録音だわ、サラウンドで聴いていたんだ」と実感しました。
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 2010.4.22
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