
Mozart: Violin Concertos Nos 1, 2, 5
Julia Fischer
指揮: Yakov Kreizberg
Netherlands Chamber Orchestra

録音2006年3月Mennonite Church、オランダ
SACDハイブリッド、約69分
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角の丸いプラケース。
ブックレットにはユリア・フィッシャーのライナー(序文)、Ronald Vermeulenの曲解説を、英独仏語で掲載。
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短期間で恐るべき進歩。モーツァルトのヴァイオリン協奏曲
モーツァルトは生涯に5曲のヴァイオリン協奏曲を残しています。第1番が1773年作曲で、第2番から第5番は2年後の1775年作曲。
モーツァルトがザルツブルグにいる一時期に、集中的に作曲された5つのヴァイオリン協奏曲ですが、第1番から第5番にかけて驚くほどの進歩をとげています。
モーツァルトが生涯にかけて作曲した「交響曲」や「ピアノ協奏曲」と同程度の進歩を、ヴァイオリン協奏曲では短い期間でやってしまっているのですからビックリです。これでも、まだ10代後半ですから、青年モーツァルト恐るべし、です。
このSACDに収められた第1番(K.207)と第2番(K.211)は、第3番以降にくらべ人気は一歩ゆずりますが、それでもヴィルトゥオーソ的で、ハツラツとしたモーツァルトを聴く喜びに浸れます。
第1番と第2番には通奏低音としてチェンバロも入れています。なぜ入れたのかは、ライナーでフィッシャーが書いています。英文なのでよくわかりませんが、オケのヴィオラとチェロパートが弱いから、でしょうか。
第5番(K.219)はモーツァルトのヴァイオリン協奏曲の到達点。「トルコふう」というあだ名のとおり、第3楽章ではエキゾチックなリズムが現れます。ハツラツとしながらも、全曲の構築性、深みはすでに「熟年の作」といってもいいほどです。
マルチチャンネルは、広い空間を表出
オーディオでは、よく「手に取れるような音」という表現を使いますが、このマルチチャンネルは「手に取れないような音」です。
冒頭、オーケストラが鳴り始めるや、リスニングルームに空間が広がり、手が届かないところにオーケストラが離れているのがわかります。奥行きとがとても感じられるのです。残響も多め。
「これはマズいか…」と不安になったところでヴァイオリンが登場。しかしヴァオリンの位置は、それほど遠く感じられず、丁度いい距離加減。半分浮き上がっていた腰も、ふたたび落ち着いてゆっくりと聴くことができました。
ユリア・フィッシャーの演奏は、道べに咲く花弁のように「無垢」な感じです。ゴージャスというより、コンパクト。
音場もモーツァルトらしくていいです。よくヴァイオリンが生々しく音圧をもって鳴る録音がありますが、この録音では、ソロ・ヴァイオリンがオーケストラとも会場とも溶け込み、ちょうど古楽器のヴァイオリンのようなニュアンスで響き、好感が持てました。
収録は教会のようですので、この残響だと思うのですが、「音」ではなく「空間」を表出してしまうマルチチャンネルの表現力に、いつものことながら感心しました。特にフィッシャーが、ひとりでポツリと弾くカデンツァ(どれも自作)で空間を感じました。
フィッシャーは、第3番(K.216)と第4番(K.218)のSACDもリリースしています。第3番は、第2番よりたった3ヶ月あとの作曲なのに、洗練と深みが、驚くほど充実しており驚かされます。いつか、このSACDも手に入れたいと思っています。
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ユリア・フィッシャーのモーツァルト:ヴァイオリン協奏曲
 2010.6.3
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