日本人ピアニストによる、しっくりくるピアノ協奏曲
DSDレコーディングによるベートーヴェンのピアノ協奏曲全集である。ピアニストは横山幸雄。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲は、グールドとかポリーニのCDを聴いていたけど、この『横山幸雄/ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集』が、わたしには一番しっくりきました。
ベートーヴェンなら、どうしても外国の巨匠、オーケストラのほうが、凄そうに思えるじゃないですか。それを「ベートーヴェンのピアノ協奏曲は日本人の若い人の演奏が一番いい(というか、しっくりくる)」と言ってしまう日がくるとは。驚きでもあります。
カデンツァは息を飲む瞬間
ベートーヴェンのピアノ協奏曲は5番〈皇帝〉が有名。3番、4番がそれに負けず劣らず、またはそれ以上の傑作とされていて、1番、2番は、まだベートーヴェンらしい個性にとぼしいところがある。
その1番、2番が横山幸雄のピアノで聴くと、たいへん魅力的に聞こえて、「あ、いいな、これ」とまず思いました。
全協奏曲、全楽章を通じていえることだけど、カデンツァがいい。ブリリアントな音色で、じっくり弾いていく。
コンサートでは劇場中が息を飲んで聴くピアニッシモがある。横山幸雄のカデンツァは、うちのステレオで聴いても、そんなコンサート会場の緊張感が伝わってきます。DSDレコーディングの凄さも手伝っていると思うけど、よいですね。
伴奏のジャパン・チェンバー・オーケストラは、在京のオーケストラのトップメンバーやソリストからなる指揮者なしの室内オーケストラです。その名のとおり室内楽的な透明感があっていいです。そりゃあ、すごくベートーヴェンのことを研究しているでしょうけど、すごく純粋に音として鳴っている感じです。
ステレオ(2チャンネル)で十分に広がる音場
このSACDはマルチチャンネル収録はなく、ステレオのみである。でも聴いているとステレオで十分だ。
ステレオでも「マルチか?」と疑うほど、左右前方に広がる。ペッタリしたCDとは別物の空気感。SACDのなかでもこれはよく出ていると思います。ひな祭りのひな壇にたとえるとCDが「3段くらいのひな壇」だとしたら、このSACDは「10段くらいのひな壇」だ。それくらい、奥行き感と広がりがあります。
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2005.3.4
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