ピアノと弦楽の溶け込み具合がいい〈ます〉
本作はピアノ五重奏曲、すなわち、ピアノと弦楽四重奏の組み合わせ曲を2曲収録しています。
有名なシューベルトの〈ます〉は、編成がピアノ+ヴァイオリン+ビオラ+チェロに、コントラバスが加わった独特の編成で、低音が充実した室内楽です。
昔から〈ます〉のレコードはよく聴いてきたのですが、「なんか、ピアノと弦楽部が溶け合わない曲だな」と感じていました。
「コンサート・グランドピアノじゃあ、シューベルトの意図したとおりにならないのか」
なんて、シロウト考えで分析しておりました。じゃあ、古楽器による〈ます〉ならいいだろう、と古楽アンサンブルの演奏を聴いても同じだった。
「しゃあない、〈ます〉はこういう曲か、いいメロディーなんだけどナア……」
なんて結論づけようとしていたところ、この田部京子とカルミナ四重奏曲の演奏を聴いてびっくり。ピアノと弦楽がすごく溶け合っている!
ついに理想の「ます」に出会えました。これならシューベルトのメロディが居心地よく聴けます。
もちろん田部京子の弾くのはスタイウェイです。田部京子とカルミナ四重奏団の相性の良さ、演奏のうまさ、そして録音の良さでしょうね。
これはシューマンの傑作だ、と今さら知りました
もう1曲のシューマンの「ピアノ五重奏曲」は、ピアノと標準的な弦楽四重奏の組み合わせの五重奏です。
シューマンの「ピアノ五重奏曲」は名曲らしいのですが、恥ずかしながら、今回初めて聴きました。
いやー、これは傑作ですね。ロマンチックなメロディー、ベートーヴェンも顔負けの構成力、まるで交響曲を聴くような充実感をもたらしてくれる室内楽で、イッパツで気に入りました。数あるシューマンの代表作の中でも、最右翼にしてもいいくらい。
田部京子とカルミナ四重奏団の演奏もすごくいい。葬送行進曲風の第2楽章の、刻々と変わっていくニュアンスは素晴らしい。第3楽章、第4楽章のピアノと弦楽のアンサンブルも、すごくカイカンでした。
室内楽をリスニングルームで聴くには、ベストな音
演奏がいいうえに、録音が良かったのもうれしかったです。
マルチチャンネルは、センターなしの4ch収録です。残響音はほとんど感じない響き。リアスピーカーはちゃんと鳴っているのだが、鳴っている感じがしないほど、前方の実在感のある音場に心奪われます。
残響に頼らない録音ゆえ、スタッフはシビアな技術を要求されたみたいですが、これが見事に成功していています。
残響音が少なめといっても、音楽として聴きやすい「うるおいのある響き」なんですよね。そこがいいです。楽器それぞれのテクスチャアがわかると同時に、全員の溶け込んだ響きも豊か、という音。
クラシックの録音の場合、ともすれば近視眼的か、ホールトーン的かと、分類されやすいのですが、どちらでもない。この鳴り方はいいです。室内楽スニングルームをリで聴くには、ベストな音に思いました。
なおこのSACDは高音質を生かし、アナログレコード2枚組になって発売もされております。アナログファンの方はこちらも魅力ですね。
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コロムビアHP LPファクトリー「あのSACDがLPレコードになる 」
田部京子のSACD
 2008.5.18
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