![]() J.S.バッハ:クリスマス・オラトリオ BWV.248(全曲) |
録音は2013年。マルチチャンネルも収録しています。アルバム・タイトルは「クリスマス・オラトリオ」のドイツ語である“Weihnachtsoratorium”。
本作では声楽が“各パート一人”という、最近の古楽では流行りの演奏です。これは歴史的な調査から、バッハが自作カンタータの演奏に合唱ではなく、単純にソプラノ、アルト、テナー、バスの四重奏も想定していたらしい、という研究にもとづく演奏です。
これまでバッハの4大宗教曲のうち『ヨハネ受難曲』『ロ短調ミサ』はバット指揮のSACDで“各パート一人”による演奏を聴いてきましたが、『クリスマス・オラトリオ』の“各パート一人”は今回が初めてです。
まずご報告ですが、今回よりSACDマルチチャンネルはOPPO BDP-105D JAPAN LIMITEDでのリスニングになります。DENNONのユニバーサル・プレーヤーがここ数年動作が不安定なことがあるので、OPPOを手に入れました。OPPOの魅力は多数ありますが、これまでどおりマルチチャンネルがアナログ出力できるのが導入の決め手でした。
さて『クリスマス・オラトリオ』のマルチチャンネル。最初のオーケストラの音が再生されるや、録音場所であるプレディクヘーレン教会(ベルギー)の響きが感じられました。
しかし残響が深いわけではなく、豊かということでしょう。
四人の声楽の声は近い距離、目の前にクッキリとあらわれます。またオーボエやフルート・トラヴェルソといった木管も極めて近くに聞こえます。室内楽を思わせる小編成の音場が目の前にあらわれている感じです。
歌手は各パートひとりなので、四重奏(通常なら合唱)になっても言葉が明瞭にわかります。加えて4つの旋律の絡み合いも綺麗に聞こえます。通常の合唱で感じる圧迫感がないので、大変に居心地のいい、また聴きやすい演奏です。ただ、こういった室内楽的な演奏でも敬虔さが全くそこなわれないところに、バッハの音楽の普遍性をあらためて感じさせます。
各パート一人の声楽だけでなく、歴史的楽器(オリジナル楽器)の音も精緻です。
弦楽器は1stと2ndが各2名、ヴィオラが1名、クイケンはバッハの明確な指定がないということで、チェロの代わりにヴィオロンチェロ・ダ・スパッラを1名。また現代のチェロに近い“basse de violin”も1名という編成。
弦楽器だけでなく、木管楽器と金管楽器もオリジナル楽器の音が魅力でした。こちらは各パート2名か1名。
木管ではオーボエ・ダモーレや、オーボエ・ダ・カッチャ、フルート・トラヴェルソなどの甘い音色がSACDでの魅力。声楽や弦楽器の数が少ないこともあって、いろいろな場面でよく聞こえます。
金管楽器はホルンやトランペットが歴史的楽器で、バルブのないナチュラル・ホルン、ナチュラル・トランペットだと思います。
通常のモダン楽器のような華やかで祝祭的な響きではありませんが、それがシブいです。
『クリスマス・オラトリオ』は全6部64曲で構成されており、その最後のコラール「今や汝らの神の報復はいみじくも遂げられたり」では、トランペットの細かいオブリガードが活躍しますが、ナチュラル・トランペットでは大変そうなところがまたリアル。
現代のバルブ式トランペットなら超絶奏法の聴かせどころですが、バッハの時代にはバルブ式はないわけで、いぶし銀のような高音で、音の移動が大変ながらも、これがバッハの時代の姿をしのばせます。楽器のことはわかりませんが、演奏者も上手いのではないかと思います。
ということで、本作はSACD2枚組、トータル2時間19分ほどあるにもかかわらず、なんと一気に聴きとおしてしまったのです。
我ながらびっくり。『クリスマス・オラトリオ』を一気に聴いたのは生まれて初めてです。
個人的には、バッハの4大宗教曲の中では一番馴染みの薄かった『クリスマス・オラトリオ』がこのクイケンのSACDで、『ロ短調ミサ』なみに聴きやすく、親しみやすくなったのは間違いないところ。よかったら聴いてみてください。
2019年3月27日