アレクサンドル・ブロック指揮、リール国立管弦楽団 ビゼー:歌劇『真珠とり』全曲 |
今回はPENTATONEから2018年にリリースされたビゼーの歌劇『真珠とり(Les Pêcheurs de perles)』全曲のSACDハイブリッドである。マルチチャンネルも収録。
ビゼーの歌劇は『カルメン』があまりにも有名で『真珠とり』は聴いたことがなかったので、このSACDを機会に初めて聴いてみた。
手に入れてから今日まで日にちがあいてしまったのは、何回も聴いてようやく「いいオペラだなあ」と思ったからである。音楽には何回も聴くことでその良さが染み込む(実感できる)曲があるものだ。
それでも最初に聴い時に「これはいいオペラかも」という印象はあった。その後、深く聴いて、このオペラもビゼーの才能があふれた曲だと分かった次第。あまりにもキャッチーな曲の連続である『カルメン』と比べると、第一印象は地味な印象であるが、聴き込むとフランス音楽らしい優美なメロディばかりだ。
それでもテノールの歌う「耳に残るは君の歌声」は超有名曲で、ポピュラーのアレンジなら誰でも一度は耳にしたことがあるだろう。「耳に残るは君の歌声」が歌われるのは、第1幕であるが、その開始から音楽は退屈しない。
舞台はセイロン島。第1幕が進むにつれ、ナディールとズルガという真珠とりの漁師によるテノールとバリトンの二重唱「聖なる神殿の奥深く」にまず心が打たれる。
モーツァルトでもワーグナーでも、感動的な二重唱はたいがい男女の愛の歌なので、男二人のデュエットに感動する自分に最初は戸惑いを感じたが、これはビゼーの曲が良いからだと納得した。
その後、テノール独唱で例の「耳に残るは君の歌声」が歌われるわけで、第1幕にして早くも聴きどころが現れる。
しかしサラウンド・ファンの真の聴きどころはその後、レイラによって歌われるアリアだ。巫女のレイラが岸壁で祈りをささげるアリア。設定が岸壁ということで、ソプラノはマルチチャンネルでは左リアのスピーカーから現れる。フロントとは距離が離れている演出だ。ホールなら左の客席の奥で歌手が歌っている感じ。
このソプラノの歌声と残響音が、左リアから放射上にリスニングルームに広がる。その響きが素晴らしい。リアに楽器や声を配置することはクラシックでもたまにあるけれど、主役の座をリアにきっちりと与えたマルチチャンネルはポピュラーでもなかなかお目にかかれない。
ディスク2の第二幕、第三幕も聴き込むと、いいメロディばかりである。
加えてPENTATONEだけあってやはり音がいい。マルチチャンネルでもフロントが2チャンネル・ステレオで聴くかのような存在感だから、音の広がりまでを考えると、あえて2チャンネルで聴く気がおこらないほどだ。
PENTATONEではオペラのSACDハイブリッドをこの他にもリリースしているから、他のSACDも聴いてみたいと思う。
演奏
ジュリー・フュシュ(レイラ/ソプラノ)
シリル・デュボワ(ナディール/テノール)
フロリアン・センペイ(ズルガ/バリトン)
リュック・ベルタン・ユーゴー(ヌーラバット/バス)
レ・クリ・ドゥ・パリ、ジェフロワ・ジュルダン(合唱指揮)
アレクサンドル・ブロック指揮、リール国立管弦楽団
録音 2017年5月9-11日/ヌーヴォー・シエクル(リール)
2020年3月2日