ワーグナー:『ジークフリート』全曲
マレク・ヤノフスキ指揮ベルリン放送交響楽団
SACDハイブリッド 3枚組
2ch & Multi-ch
PENTATONE
2013年発売
▶Tower Records | ▶Amazon
PENTATONE(ペンタトーン)がリリースした、マレク・ヤノフスキ指揮ベルリン放送交響楽団による「ワーグナー・エディション」の一つ。『ニーベルングの指輪』から第2日、楽劇《ジークフリート》全曲である。
マルチチャンネルも収録された高音質により、「ワーグナー・エディション」は画期的なシリーズとなったが、本作もそんな一つ。ワーグナーの重厚でうねるような音楽を臨場感豊かに聴くことができる。収録は2013年3月1日。ベルリン・フィルの本拠地フィルハーモニーでの演奏会形式でのライヴ録音。
実のところ筆者はこれまで『ニーベルングの指輪』四部作のなかで、第2日《ジークフリート》だけは苦手としていた。第一幕冒頭からジークフリートとミーメのやりとり。これが延々と続いて退屈してしまうのだ。若い頃なら聴きながら付属のリブレットを読んでストーリーを追いかける方法もあった。しかし字が小さすぎてもう読めない。それに本作は輸入盤ゆえ日本語対訳もない。
そこで歌詞の意味はわからなくても、ワーグナーのオペラを楽しむ方法をとる。
それはPENTATONEの《ワルキューレ》のレビューでも書いたが、「管弦楽に注目して聴く」という聴き方だ。これは名前は忘れたが、テレビで指揮者か作曲家の方が言っていた聴き方だ。ワーグナーは管弦楽だけを聴いても面白い、という。確かにたとえ歌詞の意味がわからなくても、歌手の歌うメロディに特徴がないように思える時も、その後ろでは管弦楽が面白い音楽を演奏していた。
今回もその方法で聴いたのだ。
いやあ面白かった。退屈と思っていた第1幕だったが、他の3作と違った雰囲気の管弦楽法も自分なりに感じて面白かった。たとえ飽きがきそうになっても、うまいことライトモチーフが登場して息抜きとなる。ライトモチーフは登場人物の性格描写をしていると言われるが、聴き手の根気をつなげる助けにもなる。
実は今までもこの方法で他の指揮者の《ジークフリート》を聴いたことがあったが、ピンとこなかった。今回はPENTATONEの高音質が快感で、それもあって管弦楽を楽しめたのだ。まだワーグナーの勉強の足らぬ筆者には、まずは高音質で《ジークフリート》を聴くのが良かったのだろう。
極め付きはディスク3の第3幕で、78分50秒を一気に聴き通してしまったのには、われながら驚いた。
第3幕は最後にジークフリートとブリュンヒルデが愛を誓い合う大円団があって盛り上がるものの、そこにたどり着くまでに、ヴォータンとエルダ、ジークフリートとヴォータンとの長いやりとりが置かれている。そこも含めて面白く聴けた。《ジークフリート》がここまで聴けるとは意外だった。聴きどころの多い《ワルキューレ》や《神々の黄昏》でさえ、ディスク1枚の中には退屈する所があるというのに。
ということでPENTATONEのSACD、それもマルチチャンネルで聴く《ジークフリート》は、筆者には《ジークフリート》開眼となったディスクとなった。
マルチチャンネルは、2チャンネルと間違うような自然な音場が前方に。オーケストラが鳴り響くところでは、かつてのデッカ録音のように眼前で弦楽が演奏しているかのよう。しかしソロ楽器だけになると、空間に余白が浮き上がる。歌手が歌うと空気感にさらに磨きがかかる。
2020年6月29日
ワーグナー:『ジークフリート』全曲
マレク・ヤノフスキ指揮ベルリン放送交響楽団
SACDハイブリッド 3枚組
2ch & Multi-ch
PENTATONE
▶Tower Records | ▶Amazon