※このレビューは、マルチチャンネルを収録したハイブリッド盤のレビューです。SHM-SACD盤とは別のものですので、ご注意ください。
エルビス・コステロとの共作を含む、新たな境地
本作はダイアナ・クラールのそれまでの作品『ウェン・アイ・ルック・イン・ユア・アイズ』、『ザ・ルック・オブ・ラブ』とは趣きがちがうアルバムです。これら2作のあとに本作を聴くと、最初とまどうかもしれませんが、実は本作が最も充実したアルバムかもしれません。
パートナーであるエルビス・コステロとの共作が6曲収録されてます。タイトル曲は聴いただけで「コステロ節」。コード進行、リズムが独特です。他にトム・ウェイツや、ジョニ・ミッチェルの曲も歌っています。
ダイアナの自我が現れているアルバム
コステロとの共作は、単なる話題作りではなく、重要な変化を感じさせました。
これらを歌うダイアナは、ジャズ・ヴォーカルというよりも、キャログ・キングみたいなシンガー・ソングライターの風格を抱かせます(歌い方は、もちろんジャズ風ですが)。
そのせいか、このアルバムではダイアナのピアノがすごくいい。ハービー・ハンコックを思わせるような過激なフレーズがバンバン出てきて「こんなに上手だったのか」。今までの作品では聴けないピアノプレイでした。
この作品には、名作『ウェン・アイ・ルック・イン・ユア・アイズ』や『ザ・ルック・オブ・ラブ』が、“イージーリスニング”に思えてしまうほど、彼女の自我が表出しています。“癒しのダイアナ”から“ちょっと不良のダイアナ”でしょうか(笑)。
もちろん“癒しのダイアナ”は7曲目「アイム・プリング・ユー」で。この1曲で、アルバム1枚分の癒しがもらえます。
SACD2chステレオで、より「ブルージー」に聴きたい
『ウェン・アイ・ルック・イン・ユア・アイズ』や『ザ・ルック・オブ・ラブ』のSACDは、断然、マルチチャンネルが好きでしたが、このアルバムはSACD2chのほうをメインに聴きたいと思いました。
2chステレオですと、このアルバムの「ブルージー」な雰囲気がより強調されるのです。サラウンドのゴージャスな雰囲気よりも、ストイックな前面だけの音のほうが、先に書いたダイアナの自我を、強烈に感じることができると思えました。
もちろんSACD2chはやわらかく(本当にいい音!)、この音でダイアナのヴォーカルを聴くと、結果的には“癒し”になっていると思いますが(笑)。
マルチチャンネルの音
一応、マルチチャンネルのことも書いておきます。
サラウンドは「ダイアナの部屋にやってきた感じ」です。ベースは床全体で響くような迫力。ギターはリア側に置かれています。もちろんこれも悪いものではありません。2chとマルチ、どちらも気分で選べばいいと思います。
ラスト4曲はコステロとの共作が並びます。宙に浮いたようなメロディなのに、なぜか引込まれてしまいます。録音はアル・シュミット。
Amazon(輸入盤ハイブリッド)
Amazon(SHM-SACD。SACD専用、2chステレオ) このレビューとは別のものです。
ダイアナ・クラールのSACD
 2011.2.18
|