ハーンのヴァイオリンが耳を放さない
人気ヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンのブラームスとストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲のカップリング。バックはサー・ネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団です。
この演奏を聴くと彼女の実力が、まざまざとわかります。筆者も正直その美貌ゆえ聴いてきた所がありましたが、あらためて惚れ込みました。
ブラームスでは、ヴァイオリンの存在感に、最初から最後まで圧倒されます。若さと才能が一緒くたに放出されているのでしょう。ヴァイオリンから耳が放せない。というか、ヴァイオリンが耳をはなしてくれない。
「アレグロ」楽章も「アダージョ」楽章も、「ヴァイオリンが鳴ってしょうがない」と言う感じ、または「音楽が、歌が、出てきてしょうがない」という感じです。
良い意味でオーケストラをまったく寄せ付けません。“無伴奏ヴァイオリン・コンチェルト”状態です。この演奏を聴いたら、年輪を重ねたヴァイオリニストの演奏が作為的に思えてしまいそうです。
ベタ褒めのSACDなので、ひとつだけ小言を言わせてもらえれば、アカデミー室内管弦楽団の音色が、ブラームス特有の渋さ、とろけるような甘さで、もうひとつ、でしょうか。
これが某オーケストラだったらと惜しまれますが、ハーンのヴァイオリンがすごいので、トータルでまったく不満はありません。前述のようなハーンのすごさも「このオケだから際立つ」とも言えます。
作曲家のバーバリズムをたたえたストラヴィンスキー
しかし続く、ストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲では、アカデミー室内管弦楽団はドンピシャの音色と演奏です。
作曲家の「新古典主義」の時代に書かれたこのコンチェルト。アポロ的な清楚さのなかに、冷たい美しさをたたえています。
とはいっても冷たさに陥没しすぎて、退屈な演奏が多いものですが(なのでストラヴィンスキーの新古典主義時代は誤解されやすい)、この演奏は、作曲家がいつの時代も根底に持っていたバーバーリズムを、すごく感じさせてくれます。聴いていて楽しく、躍動的です。
ハーンのヴァイオリンがまたうまい。ブラームスとまったく正確のちがう曲なのに、現代音楽のエキスパートのように演奏してしまう。もちろんブラームスで感じた圧倒的な存在感はここでもあります。第3楽章「アリアII」の妖艶な美しさ。いったい、この人はどこまですごいのだろう。
マルチチャンネル
SACDで聴くクラシックとしては、かなりの満足度です。マルチチャンネルで聴きましたが、超ナチュラルな広がり。ホールトーンは浅ので、臨場感というより、音が自然にリスニングルームに広がる。
音楽的にもオーディオ的にも、上級の仕上がりのSACDだと思いました。ハイブリッド盤ではなく、SACD専用ディスクです。
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 2009.1.18
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