アマデウス=神に愛されし者のデモーニッシュなオペラ
モーツァルトの歌劇「ドン・ジョバンニ」は、(モーツァルト自身の目録によれば)オペラ・ブッファと呼ばれる喜劇ですが、実際は、序曲からラストまで、デモーニッシュで、とてもドラマチックなオペラです。
ストーリーは、女たらしのドン・ジョバンニが騎士長を殺すところから始まる。
ドン・ジョバンニに復習を誓うその娘ドンナ・アンナたち。途中、愉快な登場人物の素晴らしいアリアを多くはさむが、最後は石像として蘇った騎士長が、ドン・ジョバンニを地獄に落とす場面で終わる。その音のなんと恐ろしいことか(モーツァルトの二短調!)。
歌劇「ドン・ジョバンニ」を聴くと、現代人が〈癒しのモーツァルト〉とか〈頭が良くなるモーツァルト〉とか言ってる場合じゃない。アマデウスとは「神に愛されし者」の意味。その名のとおりヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの神がかり的な才能を思い知りますね。
ピリオド楽器の響き、今更ですがいいです
このヤーコプス指揮のSACDは、当時のピリオド楽器を使った演奏。
今更ピリオド楽器も珍しくないですが、ピリオド楽器特有の空間のすき間と、適度な厚みが、とても快感です。木管も居心地よさそうで、ロマン派の音楽に比べてあまりみんな気をとめない〈モーツァルト・サウンド〉の素晴らしさに浸れます。
歌唱陣もなかなか良かったです。メージャー・レーベルだとスター歌手をそろえるのが定番ですが、ここでは全員一体となった、バイタリティみたいなのを感じます。キビキビとしていて素晴らしい。
レチタティーヴォ(セリフ部分)も、マルチチャンネルの表現力のせいか緊張感がCDとはちょっとちがう気がします。ピアノ・フォルテによる伴奏(通奏低音)も、かなり自由にやっているようで退屈しない。
マルチチャンネルでは、自然なホールトーンがリスニングルームに広がります。サラウンドはリアを強調しない作りが最近のクラシックの主流ですが、これもそうです。
ただドン・ジョバンニの邸宅で舞台上の楽団が演奏するシーンがありますが、その楽団音はリアに回されています。前方と響きがまとめられているので、意外と違和感はない。
3つの楽団が異なるリズムのダンスを同時演奏して、劇中の不安感を見事に演出するのですが、その効果はモーツァルトの思惑通り、サラウンドの中にいるリスナーにも伝わるのでした。
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ヤーコプスのモーツァルトのオペラSACD
2007.11.1
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