エルトン・ジョンの隠れた傑作
本作はエルトン・ジョンの3rdアルバム、日本ではLPリリース時から『エルトン・ジョン3』というタイトルです。「ユア・ソング」を収録する2nd『エルトン・ジョン』と4th『マッドマン』の間に位置します。
70年代の黄金期エルトン・ジョンを愛する人でも、案外この『エルトン・ジョン3』を聴いたことがない人が、いるのではないでしょか?
ジャケットが地味だからかもしれません。シングル・ヒットもなく、アメリカ南部風の音が敬遠されるのかもしれません。
しかし、このアルバムは隠れた名盤とも言われ、聴き逃すことのできないアルバムです。
このアルバムだけの独特の楽曲群
アメリカ南部的な「故郷は心の慰め (Contry Comfort)」は、僕の一番のお気に入り。なんとも琴線をくすぐるメロディです。他の南部的な曲も、メロディがどれも珠玉。
バラードは「遅れないでいらっしゃい(Come down in time)」と「愛の歌(Love song)」を収録。
どちらも「ユア・ソング」に匹敵する絶品ですが、この二曲は、これ以前も、また以後にも聴く事ができない独特のバラードだと思います(どちらもピアノなし、ギター・アルペジオ中心という所も共通)。
前者はスティングがカバーしました。後者はレズリー・ダンカンの作で、アルバムでは彼女もデュエットしています(バックにながれる子供たちの遊び声が幻想的!)。
他にも「布教本部を焼き落とせ(Barn down the mission)」など、ポール・バックマスターのストリングスがさえるドラマティックな曲もあります。
SACDの音は太く
SACD2chで聴くと太い音、迫力のある音に満足。
先に書いたように音楽は輝いているものの、アナログLPでは、音の艶がもう一つと思っていたのですが、SACDではその不満は消え、迫力のある艶のある音になっています。アルバム・ジャケットから感じていた地味な印象が、SACDで輝き出しました。
マルチチャンネルでさらに音は太く、古色なイメージから脱皮
マルチチャンネルはさらに驚きです。
360度サラウンドは、各楽器がじっくりと配置されていて、エンタテイメント色がおさえられており、それが、このアルバムにふさわしく成功しているサラウンドだと思います。
しかし、驚いたのはサラウンド自体よりも、各音がさらに太く迫力を持ったところでした。
SACD2chでは、よい音ながら、それでも各音がやや、くっ付いている印象(オーディオ用語の“ダンゴ”とまではいきませんが)。
それがマルチチャンネルでは、各音は軽やかに分離され、それぞれが、周りのスペースを与えられ、2chより、より大きく、太い音となって現れます。2chマスターとちがい、マルチはDSDで再ミックスしたから、こうなったのでしょうか。わかりません。
マルチチャンネルでは、完全にアルバム『エルトン・ジョン3』の古色のイメージは消え去り、カラフル感が出て、まるで絶頂期の『グッパイ・イエロー・ブリック・ロード』や『キャプテン・ファンタスティック』に等しいくらい、輝かしく思えました。
2曲のボーナストラックも、ぜひ聴いてみたい
ボーナストラックが2曲入っています。普段はボーナストラックには反対なのですが、このアルバムではOKです。
「布教本部を焼き落とせ」でクライマックスを迎え終了したあとに出てくるボーナス1曲目「つよき親父の存在」は、印象的なピアノとストリングスアレンジがカッコイイ。
もうひとつ、次回作『マッドマン』のタイトル曲となる「マッドマン(オリジナルバージョン)」も、このアルバムに入っていて全然違和感がありません。
あの重厚なストリングスはいっさいなく、狂乱のギターで仕上げた「マッドマン」。マルチチャンネルでは、この曲でついに動き回る音(ギター)があらわれます。四方からせまるギターは、まるでキング・クリムゾンのようでもあり、マッドマンの狂気を見事にあらわしています。
▶Tower Records
Amazon
 2010.12.15
エルトン・ジョンのSACD
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